バッハと生きる — チェリスト海野 幹雄
私がまだ5歳位の頃「パパの音楽聴いてていいからね」と言われると、喜んで1人でお留守番できた事を覚えている。「パパの音楽」とは、父のレコードをカセットテープに落とし込んだもの。その中に「バッハのシャコンヌ」があった。
14歳になりチェロを始め、桐朋音高3年生の時、高校から大学までチェロ科全員が集まり合奏する機会があった。曲は「バッハのシャコンヌ」。小さい頃曲名も知らずに聴いていた私は、合奏を始めた時、体内が爆発するような感動を覚えた。
その後私はバッハという名の迷宮に迷い込む事になる。学生時代に取り組んだ無伴奏チェロ組曲は自分にとっては難解で、どんな風に弾いたらいいかわからなかった。歴代のチェリスト達の演奏を聞いても良いと思えるものはなかった。父の演奏するシャコンヌの絶大な説得力、神々しさがあまりに凄く、まるで「バッハはこうである」と言われているようで。でも絶対にそんな風には弾けない、特にチェロでは。
そこから抜け出すのに何十年もかかった。大きな転機はガット弦&バロック弓との出会い。古来の素材を使うからといって、大昔の演奏スタイルを忠実に再現することが目的ではない。ただ自然の素材の持つ魅力が、バッハに対峙する私自身を非常に自然体にしてくれる。数十年間バッハと格闘してきた事が無駄ではなかったこともわかってきた。
今ではバッハを演奏するのが大好きだ。そして他者のバッハを聴く時には、演奏者の個性(声)が聞こえるようになってきた気がする。
これからも、私にとってのバッハは、変化し続けていくのであろう。私自身が少しずつ変化していくだろうから。

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