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チェリスト ヨーヨー・マ氏との対談

一般社団法人日本バッハ協会の評議委員を務める田中泰が、世界的チェリストのヨーヨー・マ氏との対談をいたしました。その様子の一部をお伝えします。

田中 泰:
 ヨーヨー・マさんの演奏の中心にはいつもバッハ、特に《無伴奏チェロ組曲》があります。ヨーヨー・マさんにとって、バッハとはどのような存在なのでしょう。
ヨーヨー・マ氏:
 バッハは「主観」と「客観」のバランスを体現していると思います。自然や人間の本質を音楽で表しているのです。そしてバッハは、まるで大好きな“おじさん”や“おばさん”のような存在です。困難に直面したときに、心を開いてくれる理解者であり、ただ受け止めてくれるだけでなく、解決へのさまざまな道を示してくれるような存在なのです。
《無伴奏チェロ組曲》の面白さは、通常チェロがひとつの旋律しか奏でない楽器であるのに対して、バッハは複数の旋律を響かせるように書いていることです。そしてその演奏を完成させるためには、聴き手の協力が必要なのです。音と音の間に隠された旋律を、聴き手の耳で補ってもらうということです。そして、私にとってのバッハとは、アーティ
ストであり、同時に科学者でもあります。
芸術家としての感性と、科学者としての深い探求心の両方を示してくれる、そのことが、私にとってのバッハの魅力です。

田中 泰  ヨーヨー・マ 氏 通訳:井上 裕佳子 氏

田中 泰:
日本においても、ようやく「日本バッハ協会」が設立され、より多くの人にバッハを親しんでいただく活動が広がっています。バッハを更に楽しむためのアドバイスをいただけますか。
ヨーヨー・マ
それは素敵なことですね。バッハの音楽は多様で、一言で表現するのはとても難しいのですが、あえて言うならば、「誰に届けたいか」を考えることが重要だと思います。若者なのか、男性なのか、女性なのか、学生なのか、働く人たちなのか。私は友人の結婚式でも、また葬儀でも、バッハを演奏したことがあります。生と死、あらゆる場面において彼の音楽は人々の心に響くのです。これまで演奏を続けてきた約50年の経験の中で、多くの方から手紙をいただいてきました。そこには、病気のとき、大切な人を亡くしたとき、人間関係がうまくいかないとき、勉強に行き詰まったとき――そんな困難な状況でバッハの音楽に救われたという言葉が溢れています。つまり、祝いの場においても、助けが必要なときにおいても、バッハの音楽はいつも我々に寄り添ってくれるのです。バッハは、人が助けを必要としているときの「薬」のような存在だと思います。だからこそ「日本バッハ協会」も、助けを求めている人を見つけることが大切なのではないかと思います。

田中 泰
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